教えるコツ 其の弐 ~伝える~

  一言に「伝える」といっても、その方法は様々です。前回の「観察する」に続き、今回は伝え方について書きたいと思います。

【言葉で伝える】
 まず、伝える方法として一番先に出てくるのが「言葉」ではないでしょうか。してほしい事やこちらが思っている事を言葉で相手に伝えるというのは、言語によるコミュニケーションを獲得した人間ならではの手段です。ただし、ただ言えば良いと言う事ではありません。伝え方によっては相手が理解できなかったり、心に響かないということは指導現場だけでなく普段でもよくあることだと思います。
 言葉で伝える際には、伝えたいポイントを1点に絞ることが大切です。前回にも書きましたが、一度にあれもこれも言われると、出来そうになっていたことも出来なくなってしまいます。また、くどくど長く説明されても何がポイントかわからないばかりか、聞く気もどんどん少なくなってしまいます。伝える言葉は出来るだけシンプルにして、一つが出来たら、次のことを伝える方がよいでしょう。
 色々と言ってしまうのは「伝えたい」と思う気持ちが強ければ強いほど陥ってしまいがちです。多くを伝えたい気持ちもわかるのですが、そこを一度グッと押さえて、小出しにしていく方が結果的にはうまく伝わるでしょう。
 難しいことですが、ARPSの指導でも非常に気を付けていることであり、一言で変わる「魔法の言葉」を日々探しながらレッスンを行っています。

【見せて伝える】
 運動指導の現場で動作を伝える時は、「見せる」ことが効果的です。「見せる」ことと「言葉」のどちらか片方だけではうまく伝わらないことがあるので、「言葉」と「見せる」事のバランスが大切です。子どもの理解力は我々大人よりも低いので、「言葉」よりも「見せる」比重は大きくなり、理解力がある大人には「言葉」による比重を大きくする方が良いと思います。
 また、「見せる」際には、伝える側が出来ていることが必須となります。言葉と行動が一致していなければ、相手は理解できず混乱するでしょうし、「言っていることとやっていることが違う」というのは、親として子育てをする際にも気をつけたいことです。
 職人の世界では「師匠は何も言わず、弟子が技を見て盗む」ということが多いと聞きます。そのような方法は、前提として、学ぶ側(弟子)の意欲が大きく関係していることや、技術の習得が最優先ではなく、遠回りすることさえも職人としての厚みを出す為に必要であるという考えに基づいているものだと思いますので、相手によって、「見せる」と「言葉」のバランスを考えて伝えると良いでしょう。

 山本五十六の名言、「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、褒めてやらねば人は動かず」や、ウイリアム・アーサー・ワードの「凡庸な教師はただ喋る、良い教師は説明する、優れた教師は自らやってみせる、そして偉大な教師は心に火をつける」といった言葉があるように、「伝える」側の言動は「受け取る」側に大きく影響を及ぼすことになりますので、指導者でなくとも心にとめておきたいものです。

 次回は「やる気を引き出す」について書きたいと思います。

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